医者として優れているから、時間とともにクチコミが広がって患者さんが集まる・・・これは理想ですが、マーケティング思考があればそれを何十倍にも早めることが可能です。
医療マーケティングの視点
マーケティング思考を持って「医療」を見つめてみましょう。消費者が購入するのは形のない「医療」という商品です。この商品は患者さんの身体に対して直接施されることで「消費」される商品です。つまり、生産と同時に消費される商品なわけです。
しかも「医療(西洋医学)」の基本が身体に傷害を与える行為にあることは医療従事者ならば自明の理です。だから消費者はこの商品を「試してみる」ということはできません。つまり、選択が重要な商品であるわけです。
さらに、病気が治った・治らないという結果を判断することができても、その手段には様々なものがあります。そしてその効果は個々の患者ごとに異なるため、どの手段を選ぶのが良いのか選択することが難しい商品です。
ましてやどこの「医療機関」を選択するのが自分にとってベストなのかを掴むことはさらに困難を極めます。そこで、クチコミであったりメディアに登場する知名度であったりで判断される可能性が高くなるわけです。
医療施設側にとって見ても、逆な意味で、つまりどうやって他の医療施設と差別化を図るかが大きな難しさとなって現れてくるわけです。
数ある医療施設の中で、どうやって公正な手段で自分の施設に患者さんを導くか・・・。これは理屈ではなく経験が必要です。
コンセプトの重要性
どのようにして自院に目を向けてもらうか・・・。たぶん行っている医療は、どこも似たり寄ったりです。
結果だって、医療機械の進歩や手技の公表によってそれほど大きな差はないかもしれません。そんななかで自院に患者さんの関心を向けさせるには、医療機関側が自院の魅力がどこにあるのかをしっかり把握することが重要で、それが思い浮かばなければ魅力を作り出さなければなりません。
この魅力(強み)は医師だけでなく、職員全員が共通して理解していなければならない、マーケティングの根幹に位置する部分です。これがコンセプトになります。
コンセプトが固まれば、こんどは打ち出し方、そして市場(マーケット)をどこに置くかといった分析が始まります。もちろん、コンセプト自体がまだ弱くて、市場に対する訴追効果が薄い場合には、複合的プログラムなど検討し新たなブランドを創出していく必要も考えなくてはなりません。
ブランドを高めるひとつの例
ブランドを高める上でコンサルタントの力を借りなくともできるものがあります。それはポジショニング戦略というもので、イメージ戦略と補完戦略があります。
イメージ戦略としては、大学病院医学部との連携を行っていることを強調し、その大学の教授などに顧問になってもらう方法が考えられます。補完戦略は知名度の高い教授やメディアで名前の売れている医師に月1回でも来院してもらい、診療日あるいは手術日を作るという方法が考えられます。
あるいは両者を組み合わせて、大学病院と連携していることをアピールしながら、大学病院の医師(教授クラスでなくともかまわない)が診療を受け持ってもらうといった方法もありでしょう。
これらは案外、効果があります。
情報提供のルール
消費者は自らのニーズを解決するための手段として「どのような医療があるのか、リスクは?」、と「その医療を提供している医療施設はどこで、どんな医師が行っているのか」といった情報を探索します。
医療機関が提供する情報については、医療法第69条(広告規制に関する規定)で厳しく定義付けられ、その後の複数回にわたる医療法改正や厚生労働省告示などにより徐々に緩和されてきてはいます。しかしながら、他のサービス産業と比べると厳しい広告規制の中にあることは間違いなく、いかに正当な方法で他の医療施設との差別化を図れるかが消費者に目を向けてもらう大きな鍵になります。
インターネットの普及によって消費者は様々な医療手段の情報を入手することができるようになっています。その中には不正確なものも多く、これら情報の雑多さは時に、消費者を混乱させ間違った行動へと導いたりもしています。
日本の場合には判例で、広告媒体はその掲載した広告内容について法的な責任を問われることはあまりないようです。私たちは医療法の規制範囲を十分に把握した上で、広告戦略をプロデュースしています。
マーケティングのセグメント
患者さんのニーズ(needs)とウォンツ(wants)
患者さんのニーズを埋める手段は一つとは限りません。
たとえば屈折矯正手術LASIK。患者さんのニーズは視機能の改善にある場合、その手段はレーシック手術だけではなく眼鏡やコンタクトレンズでも可能なわけです。患者さんは見えればいいわけで、その手段は問題にしていません。この場合、自院に関心を示してもらうようにするためには2つのステップが必要となります。1つはレーシックが解決する手段として一番適切だという方向に向いてもらうこと。2つめに自院を選んでもらうこと。
患者さんのニーズが眼鏡やコンタクトレンズを使わない裸眼での生活というところにある場合、解決方法は屈折矯正手術を受けるということになるでしょうから、ステップは1つで済みます。このクリニックで手術を受けたい(ウォンツ)を導けばよいのです。
患者満足度と職員満足度
患者満足度を高めることは、誰にでもわかるように非常に重要なことです。そのために流れに沿った演出も必要になります。でも売り上げが思うように伸びないと焦りが生じ、患者さんのニーズを無視して来院したすべての患者さんをとり急ぐはめになります。
医療スタッフは自分に与えられた仕事だけ淡々とこなせば良いというわけではなく、患者さんが求めているものが何なのか、患者さんのライフスタイルもあわせて耳を傾けながら、十分なコミュニケーションを行うことが必要です。当然、患者さんの思いを尊重する姿勢や自尊心を傷つけない接し方も必要です。
患者満足度は、医療の質そのものだけで決まることはありません。患者さんが電話やメールで問い合わせをしてきたときの応答、来院したときの受付の対応、カウンセリングや検査員の知識や態度、医師の目線や振る舞い、すべてが見られます。
顧客満足度を高めるためには、質の高い医療と同時に質の高いサービスを提供しなければならず、それはすなわち、施設で働くスタッフへの負荷が強くなる傾向にあります。そのため経営学の中では一般的なことですが、顧客満足度を高めるためには従業員満足度を高める必要があるといわれています。
従業員満足度を高めると、従業員の生産性が向上し組織に対する忠誠心(ロイヤリティ)が芽生えるとされています。職業に対する使命感だけでは限界があるのです。